社風を表すユニークなスローガンでブランド力を強化。コロナ禍でも過去最高の売り上げに
プロジェクト概要
伍魚福は、珍味を販売する食品会社だ。同社は工場を持たないファブレスメーカーで、商品企画と卸しは伍魚福が手掛け、製造は全国200社ほどの協力工場が担当。現在、スーパーやコンビニ、駅売店など4000以上の店舗で販売されており、大阪・梅田の阪神百貨店には直営店も構えている。GRAPHはブランディングを担当し、名刺のデザインをはじめ、スローガンやコンセプトムービーなど制作した。
課題
- 伍魚福は、おもしろい会社を真面目に目指している。そんな同社のアピールすべき個性や社風が、顧客に伝わっていないことが課題だった。商品開発のコンセプトは、エンターテイン(人を面白がらせる、もてなす)という意味と、おつまみを食べるリラックスしたシーンを重ね合わせた「エンターテイニングフード」。目指すのは「すばらしくおいしいものを造り、お客様に喜ばれる商いをする」(経営理念)「神戸で一番おもしろい会社」(行動指針)。それらを集約した分かりやすいスローガンが必要だと考えた。
GRAPHからの提案
- 「珍味の会社」より「珍味を極めている会社」のほうが企業努力を感じる。同価格なら「極めているほうが欲しくなるはず」という考えから、「珍味を極める」、略して「珍極」(ちんきわ)という新スローガンを考案。超高級珍味とは異なる親しみやすいブランドであることが感じられるように、スローガンの最後にハートマークを入れた。
- 名刺が伍魚福の個性を伝えるコミュニケーションツールとなるように、売れ筋商品をクローズアップした遊び心のある写真を使用。テクスチャーのように名刺の裏面に配し、20種類ほどデザインした。
結果
- 「珍味を極める」というスローガンをネーミングに活用した「一杯の珍極」という新商品が誕生。食べきりサイズの新シリーズで、売れ行きは好調だという。
- 伍魚福の従業員にとっては、自分たちが目指す方向性を再認識する機会にもなった。
スタッフクレジット
北川一成 / 村部悠蔵
クライアントインタビュー
山中勧氏
株式会社伍魚福 代表取締役社長
Q: GRAPHと知り合ったきっかけは。
デザイン経営に関心があり、神戸市の外郭団体が主催していた勉強会に半年ほど参加していました。その同時期に北川さんが商工会議所で講演をされたんです。それをきっかけに知り合い、ちょうどその頃、デザインの勉強会を通じて会社のロゴをリニューアルしたばかりだったので、GRAPHさんに名刺のリニューアルについて相談しました。そのとき、ブランディングの提案もいただき、スローガンやコンセプトムービーの制作などを行いました。現在もGRAPHさんに名刺の印刷をお願いしており、お付き合いは続いています。
Q: 名刺のデザインを初めてみたときの印象は。
最初は正直、戸惑いました。商品写真の扱い方が独特で、「なんじゃこりゃ」というのが率直な感想でした(笑)。社内で議論になったので、北川さんにデザインの勉強会を開催していただきました。
北川さんは「伍魚福の個性を考えると、おもしろい会社であることをスタイリッシュに変換せず、ありのまま表現するほうが親しみを感じる」「違和感があるデザインは、コミュニケーションを誘発するきっかけになり、記憶にも残る」といったお話をされたのですが、実際、その通りになったんです。
今も名刺交換のたびに、「この写真は何ですか?」「おもしろい名刺ですね」といった会話が生まれています。
Q: 「珍味を極める」略して「珍極」というスローガンも、かなりインパクトがあります。
社内で「音の響きが恥ずかしい」という意見があり、名刺と同様に賛否両論がありました。ただ、その「ちょっとクスっと笑ってしまう感じ」こそ、伍魚福が目指す「おもしろさや楽しさ」であり、実は的確に表されていると気づいたんです。それで採用を決めました。
Q: ブランディングの効果は。
エゴサーチをすると、SNSで「#珍味を極める」というハッシュタグを付けて、購入した商品や晩酌を楽しむ写真を公開してくださる方がいて、言葉の広がりを感じます。あと、「珍味を極める」とスローガンをピンバッチにも仕立てました。そのピンバッチを社章のように身に付けている私を電車で見かけた方が、「おもしろいバッジをつけている人を見かけた。伍魚福という会社の人らしい」とブログに書いていたんです。
SNSでつぶやいたり、ブログに書いたりするくらい、人の記憶に残り、印象に残るフレーズなのだと、あらためて認識しています。
スローガンの誕生をきっかけに開発した「一杯の珍極」という食べきりサイズの商品は、発売当初から良く売れています。そのパッケージデザインは、自社で手掛けたのですが、レイアウトはGRAPHさんがデザインしたステッカーを参考にしました。いろいろ検証したのですが、ロゴの配置が完璧なんです。
Q: 近年の売れ行きは。
自社サイトをはじめ、楽天やAmazonなど、ECでの売れ行きが伸びています。特に父の日のある6月と忘年会シーズンの12月は、詰め合わせのギフト商品が人気です。2020年はコロナ禍でしたが、家飲みが増えたこともあり、過去最高の売り上げとなりました。珍味を極めるというスローガンでブランド力を強化していたことも、奏功していると思います。
分析
工場を持たないファブレスメーカーである伍魚福にとって、商品開発はビジネスの根幹だ。同社の山中勧社長は「おもしろい会社であることが、良い仕事やサービスを生む」という考えのもと、「神戸で一番おもしろい会社」を目指して、全社員が楽しみながら商品開発に携わる仕組みも構築。毎年50以上もの新商品を開発している。
そんな同社の個性や社風を的確に表したのが、遊び心のある名刺と「珍味を極める」というスローガンだ。
スローガンの特異な点は、単なる「珍味の会社」ではなく、「珍味をとことん極めている会社」という、伍魚福が目指すべき方向性を明快に示していることだ。その効果は社外だけでなく、社内にもあったという。「珍味を極める」というスローガンを社内では人材育成のスローガンととらえ、従業員は「自分の“珍極”は何か」を考え、自社発行の情報誌「伍魚福ミュージアム」で発表したそうだ。
デザイン戦略は、従業員が一丸となって取り組む必要がある。伍魚福のブランディングは、その実践につながった事例と言えるだろう。
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