1ページでわかるGRAPHのこと

展覧会「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」
ミナ ペルホネン

オフセット印刷は表現の一つ。長年蓄積してきた印刷技術の裏付けが大胆な発想を生み出す

プロジェクト概要

「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」は、1995年の設立から現在に至るまでのミナ ペルホネンと、デザイナー皆川明氏の創作と思想を紹介する、同ブランドにとって過去最大規模の展覧会だ。2019年11月16日から2020年2月16日まで東京都現代美術館で開催し、その後、兵庫県立美術館に続き、2022年4月23日から福岡市美術館、その後、青森でも巡回展を予定している。ロゴやポスター、図録などのグラフィックデザインは、サン・アドの葛西薫氏が手掛け、GRAPHはポスターやフライヤーなどのプリンティングディレクションを担当した。

GRAPHからの提案

ミナ ペルホネンは、インハウスデザイナーが手作業で制作した図案を基に、丁寧につくったテキスタイルを余すことなく様々なアイテムに活用している。例えば、ハギレを用いてパッチワークしたアイテムをデザインしたり、家庭用の裁縫の材料としてハギレを販売したりしている。オリジナルでテキスタイルを生産してきたブランドとして、ハギレにも価値があると考えているからだ。そうした思想を基に、GRAPHが最初に考えたことは、印刷所の倉庫に保管されたまま使われていない「余った紙」を活用するというアイデアだった。

紙の種類を統一しないと、均一に刷ることは難しい。だが、紙ごとに表現が微妙に変化すること自体を「個性」として活かすことは、ミナ ペルホネンらしさでもあると考えた。そこで「無駄にしない」ことと「あえて均一にしない」というコンセプトを提案し、葛西氏とともに紙の選定や印刷方法を検証した。

ティザーのフライヤーは、10種類の個性の異なる紙で制作。印刷機やインキの分量などを微調整しながら、木版画やシルクスクリーンのような、全てが1点物のような風合いのある表現に仕上げた。通常、捨ててしまう「試し刷りも唯一無二の表現」とGRAPHは捉え、全品納品した。

上田義彦氏が撮影した写真入りのポスターは、葛西氏から「皆川さんがつくるものは服なので、ポスターも布の柔らかさや肌触りの良さなど、『布的』なものにしたい」というリクエストがあった。それを踏まえ、GRAPHは、写真とロゴを組み合わせた葛西氏のデザインに適した2種類の紙を選定し、プリンティングディレクションを行った。写真の見栄えを担保しながらも、青いロゴ部分にかすれを出すなど、絶妙なバランスで布的な質感を表現した。

スタッフクレジット

北川一成 / 錢亀正佳

クライアントインタビュー

Akira_Minagawa_kasai_kaoru

皆川明氏
ミナ ペルホネン デザイナー

minä perhonenブランドサイト

 

葛西薫氏
サン・アド グラフィックデザイナー

サン・アドコーポレートサイト

Q: デジタル化に伴い、印刷物の需要が減りつつありますが、ミナ ペルホネンさんは展示会のお知らせをはじめ、「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」のティザーのチラシやポスターなどからも、印刷物を大切に制作し続けている印象があります。皆川さんの印刷物に対するお考えをお聞かせください。

(皆川氏)印刷物は質量や触感があり、視覚だけではない感覚とコンタクトできるものだと思います。そして物理的なプロセスがあることで人間の介在も多く社会と多面的に関わるという側面も大切に感じています。

Q: ものづくりにおけるGRAPHの強みや魅力は、何だと思われますか。

(皆川氏)既成概念がないこと、無限に挑戦すること、難題への労力を厭わないこと、自社で何とかできること。

Q: GRAPHをプリティングディレクションに指名したのは葛西さんだったそうですね。その理由は。

(葛西氏)「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」のグラフィックデザインを担当することになり、私がやるべきことはミナ ペルホネンの輪郭を捉え、そのまま表現することだと思いました。私のデザインによって、皆川さんのファンをはじめ、多くの方々の中に根づいたミナ ペルホネンの世界観が違うものになってはいけない。そんな恐怖心や緊張感がありました。だからこそ、プリンティングディレクションは、皆川さんと長年お付き合いがあり、私も心から信頼しているGRAPHさんにお願いできたら心強いと思い、依頼することにしました。

Q: 印象に残っているエピソードがあれば教えてください。

(葛西氏)最初の打ち合わせから、やっぱりGRAPHにお願いしてよかったと思いました。北川さんは、皆川さんのものづくりの思想を基に「余った紙や倉庫に眠っている紙を使って印刷するのはどうだろう」「均一に表現しすぎないほうがいいのでは」といった大胆なアイデアを提案してくれたんです。それを皆川さんに伝えたら、面白がってくれて、その考え方をどうやって実現していくか考えてきました。

Q: GRAPHの強みは何だと思いますか。

(葛西氏)とにかく印刷やものづくりの知識が豊富で、非常にマニアック。そして、仕事が非常に丁寧で安心してお任せすることができます。北川さんは、仕事を楽しんでいる感じがいいですよね。きっと、これまでイメージ通りに刷れなかったときも、失敗ではなく「経験値が増えた!」とポジティブに受け止め、面白がっている様子が思い浮かびます。そんな技術の裏付けがあるからこそ、大胆な発想ができるのだと思います。今回の仕事に限らず、GRAPHは僕がデザインしたものを独自に解釈して、印刷での表現方法を提案してくれます。僕より、僕のデザインのことを考えてくれるんです(笑)。印刷会社というよりは、印刷研究所や相談所のような特別なポジションで、僕にとってもデザイン業界にとっても、なくてはならない存在だと思っています。

分析

一般的に印刷は、同じ品質のものを大量に効率良くつくるためものだ。それができることは当然とした上で、GRAPHではオフセット印刷を、油絵や彫刻、写真、映像といった一つの表現手段と捉えている。そのため、今回の事例のように、ミナ ペルホネンの思想や世界観、葛西氏のデザインの意図を汲み、「あえて均一にしない」「試し刷りも唯一無二の表現」といった発想が自然と生まれてくる。

GRAPHの強みは「均一にしない」というコンセプトに対して、「このくらいのズレ具合が丁度いい」と判断できる「センス=感性」があり、その抽象的で感覚的なことを「翻訳=言語化」して印刷のオペレーターに指示できることだ。最適な表現のための印刷機のスピードや圧の掛け方、インキの分量など、具体的な数値に変換して伝えている。また、単にデザイナーのリクエスト通りに表現するのではなく、これまで蓄積してきた技術や知見を基にオリジナルのアイデアも必ず提案しているという。いわゆる受注仕事ではなく、どの仕事も協業するというスタンスで取り組み、新たな表現を生みだしている。それもGRAPHの特長であり、葛西氏のように全幅の信頼を寄せるクリエイターが多い理由の一つだ。

編集・執筆:西山薫(デザインライター)