BtoB企業のブランディング。価格競争からの脱却を目指し、細部までつくり込んだ世界観で合繊のイメージ刷新

プロジェクト概要

「カジフ」は、合成繊維(以下、合繊)テキスタイルの一大産地、石川県に拠点を構える繊維メーカー「カジグループ」が2019年に立ち上げた生地ブランドだ。北陸の産地と連携し、合成繊維の新しい価値と可能性について研究・開発を行いながら、カジグループのハイスペックなオリジナル生地を販売している。GRAPHはブランドの立ちあげに参画し、ネーミングをはじめ、ロゴマークやウェブサイトのデザイン、展示会のプロデュースなどを行った。www.kajif.jp/

課題

  • アジア各国で合繊テキスタイルが生産されており、価格競争に巻き込まれている。
  • 合繊テキスタイルは安価なイメージが強い。
  • 問屋との関係性が変化しており、ビジネスモデルの転換も検討。自社ブランドを立ちあげ、生活者に極めて近いファッションデザイナーやプロダクトデザイナー、ものづくりに携わる人たちへ直接アプローチする必要性を感じていた。

GRAPHからの提案

  • 機能性はもちろん、高品質な合繊テキスタイルのなめらかな質感やハイグレードなブランドであることを伝えていくためにも、北陸が繊維産地として発展してきた歴史や自然環境をテーマに世界観をつくり込み、ブランディングを行う。

結果

  • コミュニケーションのきっかけをつくる造語のブランド名と、79という数字を用いたマークを考案。
  • BtoB企業だけでなく幅広い層にアプローチするために、これまでの合繊テキスタイルのイメージを払しょくするデザイン性の高いホームページを開設。
  • 第1回と第2回の展示会をプロデュース。合同展示会とは比べものにならないほど、集客数は多く、メディア関係者の参加率も非常に高かった。

スタッフクレジット

北川一成 / 吉本雅俊 / 錢亀正佳

クライアントインタビュー

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高木光朗氏
カジレーネ株式会社 専務取締役

KAJIfブランドサイト
カジグループコーポレートサイト

            

Q: カジフというブランド名と79という数字を用いたマークについて。「カジフ/KAJIF」は造語で、「F」は、「繊維(ファイバー/Fiber)」や、「布(ふ・ファブリック/Fabric)などから着想しています。79は「金」の原子番号で、金沢との結びつきからイメージされたものです。これらを初めて見たときの率直な感想は。

まず、ネーミングやマークのデザインにどういう思いが込められているか、知りたくなりました。能動的に知りたいと思わせるフックのあるデザインは面白いし、可能性を感じたのを覚えています。「意味を1つに限定しないことが思考するきっかけにもなる」と北川さんから教えていただいたので、「79」の数字については、「金はいつの時代も高級であることから、合繊の価値を高めていくための目標のような番号」と、自分たちでも解釈を広げてみました。
実際、私がデザインを最初に見たときと同じように、お客様と名刺交換をすると「カジフのフってなんですか」「79ってどういう意味ですか」とよく聞かれます。その質問が来たら「よっしゃ!」と(笑)。自社の特徴や、安価に思われがちな合繊の価値について説明しています。

Q: ブランドの立ちあげからブランディングに取り組んでいます。その効果や価値についてご意見をお聞かせください。

経営において、デザインはとても重要だと思っています。ただ、中小企業がデザインに投資することに躊躇する気持ちも分かります。カジグループがブランディングに取り組んでいるのは、社長の梶(政隆)が「いいものをつくるのは当然のこと。ただ、いいものをつくっているだけでは、ブランドにはならない。ブランドとして認知してもらうためには、統一した世界観で発信することが重要。生き様自体がブランドになり、細部まで手を抜かない」という信念を持っているからです。その考えは社員にも浸透しており、私もそう思っています。

Q: 顧客とのタッチポイントの1つ、ホームページのデザインは細部の細部までこだわっていますね。

映像がとても美しく、ホームページのデザインはカジフの世界観の基盤となっています。2019年10月にカジフの生地を全て取りそろえ、質感や機能性を体感したり、サンプルをお渡ししたり、商談したりするライブラリーをオープンしました。その空間デザインやディスプレーなども、ホームページの世界観を踏襲しています。ホームページでカジフを知り、デザインがかっこよかったから来店したというお客様も少なくないんですよ。
今後は、北陸の産地と連携しながら、サスティナブルな考え方なども、ブランディングの一環として取り組み、発信していきたいと思っています。

分析

選ばれるブランドを目指すためには、数値化できるスペックなどの機能的価値だけでなく、理念やストーリー、デザインなど感情に訴えかける情緒的価値を伝えていくことも重要だ。カジフの場合、北陸で合繊テキスタイルが発展した歴史や自然環境などを基に、情緒的価値となる独自の世界観をつくり込み、ホームページで発信している。揺らぎのある有機的な映像を用いたデザインで、合繊テキスタイルの人工的で安価なイメージを見事に刷新。高機能・ハイグレードな高級生地ブランドとして、スタートを切ることができた。

ブランディングのプロセス

能動的に選ばれる生地ブランドに必要なこと

GRAPHは、生地ブランドのブランディングを担当した。クライアントからのオーダーは、「ハイスペックな合繊テキスタイルを取りそろえる、高級生地ブランド」の世界観の構築だ。まずは、顧客とのタッチポイントの1つであるホームページで、ブランドイメージを発信していくことを提案。GRAPHのプロジェクトマネージャーの銭亀がクリエイティブディレクションを務め、ウェブデザインはthaの中村勇吾氏に依頼。ロゴマークのデザインは北川が担当した。

まず、映像を制作した。ナイロンやポリエステル、キュプラなどを使用した合繊テキスタイルが絹の代替品として誕生したことや、降水量が多い北陸地方の自然が合繊の生産に適していたことなど、繊維産地として発展してきた歴史や環境をテーマに、ハイスペックな生地の魅力を映像表現で直感的に伝えていくことが狙い。その世界観を基に、ウェブデザインを構築した。

能動的に「選ばれる生地ブランド」を目指すために、BtoBだけでなく、生活者に極めて近いファッションデザイナーやプロダクトデザイナー、ものづくりに携わる人たちにも直接アプローチしていくことが決まっていた。そのためホームページは幅広い層の閲覧を想定し、かっこよさがストレートに伝わるデザインにした。

一般にも開放した慣例にとらわれない展示会

展示会のプロデュースもGRAPHが担当。初回の展示会の会場には、巨大な流木とテキスタイルを組み合わせたアイコニックなアート作品を設置。ブランドの世界観を体感できる空間を目指したという。展示したテキスタイルは、切りっぱなしでもほつれない、世界初の織物フリーカット素材(特許申請中)「CUTTABLE(カッタブル)」をはじめ、6つの生地カテゴリー、40アイテム。「アンリアレイジ」や「ハルノブムラタ」など、7つのファッションブランドがカジフの生地でつくったプロトタイプも展示した。

初回の展示会は東京・代官山にある「代官山 T-SITE GARDEN GALLERY」で2日間にわたって開催。2日目は一般にも開放し、ファッション業界以外のデザイナーやファッションブランドのファン、通りすがりの人なども自由に入れるようにした。想定をはるかに超える来場者数で、メディア関係者も数多く参加。繊維メーカーの展示会の慣例にとらわれない自由な発想で、先進的でファッショナブルなブランドのデビューを飾った。

編集・執筆:西山薫(デザインライター)