普遍的だけどどこか違う、知財戦略から生まれたブランドネーム

プロジェクト概要

kolor(カラー)は、デザイナーの阿部潤一氏が2004年に立ち上げたファッションブランドだ。2005 年春夏からコレクションをスタートし、国内はもちろん、その他アジア圏や欧米でも展開している。GRAPHはブランド名のネーミングと、ロゴのデザインを担当した。

課題

「誰もが聞いたことがある音を持ちながら、特定のイメージを持たれないブランド名にしたい」というデザイナーの阿部氏の意向から、当初ブランド名はcolor(カラー)の予定だった。だが、colorは一般的な単語なので、ファッションの分野で商標登録が難しいことが判明。ブランド名を再考する必要があった。

GRAPHからの提案

  • 阿部氏の意向と知財戦略を踏まえ、ロゴマークとネーミングを検討。表記はcolorの頭文字を「k」に変更し、kolorにすることを提案した。
  • kolorと名乗る“偽物”と差異化するために、ロゴの一部に揺らぎを持たせたデザインを考案した。

結果

ブランド名の頭文字の「c」を「k」にしたことで、商標権は取得できた。英語ではkolorという単語は存在せず、阿部氏の希望通り、特定のイメージを持たれないブランド名となった。

スタッフクレジット

北川一成

クライアントインタビュー

Credit _ Daido Moriyama_340x340px

Photo by Daido Moriyama

阿部潤一氏

kolor デザイナー

            

Q: GRAPHとの出会いについて教えてください。

一成さんとの出会いは、kolorを立ち上げる前のことです。1990年代後半頃に、何かの雑誌にインパクトのあるデザインが掲載されていました。

それは、お地蔵さんのような石仏写真と、「子じか」という子どもが書いたような習字作品を組み合わせた異質なビジュアルで、見たときの衝撃は今でも覚えています。そのデザインを手掛けたのが、一成さんでした。その時点では何の面識もなかったのですが、その頃活動していたブランドで何か一緒につくりたいと思い、自らGRAPHに連絡したのが出会いのきっかけです。

当時の一成さんは、まさに新進気鋭のデザイナーで、お互い次の高みに向かって精力的に活動している時期でした。年齢も同じで意気投合し、ポスターや、Tシャツなどをデザインしていただきました。その後、kolorを立ち上げるとなったときに、新ブランドのロゴのデザインをぜひ一成さんにお願いしたいと想い、相談しました。

Q: 当初はcolorという表記だったそうですね。

そうなんです。新しいブランド名は、誰もが1度は聞いたことがあり、簡単に覚えられて、特定のイメージを持たれないものにしたいと考えていました。colorというブランド名にしようと思ったのも、色という意味ではなく、音の響きが気に入ったことが理由です。

colorをkolorに変更したのは、GRAPH側からの提案でした。ロゴのデザインをお願いしたら、「一般的な名称なので、少なくともファッションの分野で商標登録は難しい。ただ、商標登録せずにブランドを立ち上げて人気が出たら、類似商品や海賊版などが販売されてしまう可能性もある。また、ブランド名が浸透してから名称を変えることもリスクが大きい」と言われました。

その後、GRAPH側から「たとえば、cをkに変えるのはどうですか?」と連絡があったんです。kolorという英語はないので、色という意味からも離れることができ、音はカラーのまま。迷うことなく「それでいきましょう」と、ブランド名はkolorに決まりました。

Q: 提案されたロゴのデザインを見たとき、どのような印象を持たれましたか。

2パターン提案があり、検証過程の膨大なロゴも見せてくれました。僕が選んだのは、ユニバースを基にデザインしたロゴです。

すごくいいなと思ったのですが、その場ですぐ返答はしませんでした。それは、毎日見続けても飽きないか、気になることはないか、僕自身の感覚で試したかったからです。
それで、プレゼンシートをしばらく預からせていただき、自分の机の前に貼って毎日眺めながら過ごしていました。見飽きることもなく、気持ちも変わらなかったので採用しました。

kolorのネームタグにはロゴに加え、「この製品の一部、全体を無断で複製、または、個人の着用以外の目的で使用することはできません」といったコピーが英語、フランス語、イタリア語、日本語で入っています。

このネームタグのルーツは、GRAPHのプレゼンシートなんです。毎日、机の前に貼って眺めていたプレゼンシートに「無断転用を禁止する」というコピーも入っていて、デザインに対する誇りや、毅然とした態度が伝わり、なんだかかっこいいなと。それを参考に、ネームタグをデザインしました。

Q: ロゴは阿部さんにとって、どんな存在ですか。

ロゴは、僕がデザインするすべての洋服のネームタグに入ります。1シーズンで数千枚、それが年間2シーズンあり、18年間続いている。世界中に展開もしていて、ロゴを目にしない日はありません。かといって、ロゴのことを常に意識しているわけでもない。もはや、僕にとってロゴは、水や空気のように当たり前に存在するもので、なくてはならないものです。

今、あらためて見返しても、うちのロゴはかっこいいなぁと思います。ぜんぜん古臭くならず、これまでロゴを変えるといった議論になったこともありません。

よく考えると、一成さんにロゴの相談をしたとき、洋服は一枚もつくっておらず、ショップの場所も内装なども何も決まっていませんでした。そんな状況でしたが、一成さんはたくましい想像力でブランドの未来を見据えながら、ロゴを考案してくれたのだと思います。
もし、一成さんにロゴのデザインをお願いしていなかったら、kolorというブランド名にはなっていなかった。20年以上前、思い切って連絡して、本当に良かったと思っています。

分析

GRAPHは30年ほど前から、「デザインは企業活動に欠かせない資産のひとつである」という考えの基、知財戦略とデザインを同時に提案している。kolorのロゴは、その代表的な事例のひとつだ。「kolorの未来を文字の形に写しとろうと思った」と、北川は完成された書体「ユニバース」をあえて崩してデザインした。商標登録のためにネーミングにひねりを効かせ、シンプルでありながら模倣されにくいデザインで、鮮度も保ち続ける。そんな理屈と直感が入り混じったデザインの考案は、北川が最も得意とすることである。

編集・執筆:西山薫(デザインライター)