さつま芋スイーツの新ブランド、ポップアップショップの売り上げは目標の2倍
プロジェクト概要
「芋の上松蔵(いのうえまつぞう)」は、神戸の老舗ベーカリー・ドンクが展開するさつま芋スイーツ専門店だ。70年以上の歴史を持つ同社のスイートポテト専門店「松蔵ポテト」の新ブランドとして、2019年に誕生した。焼き芋から作り上げるスイートポテトや、新ブランドのために2年以上試作を重ねて完成させた「芋けんぴ(甘・塩・ごま)」など、職人の丁寧な手仕事でさつま芋の美味しさを引き出した“作りたて”のお菓子を販売している。GRAPHはコンセプトの立案をはじめ、ネーミングやロゴタイプ、パッケージデザイン、店舗のVI などを手掛けている。
課題
- 「松蔵ポテト」のイメージにとらわれず、「和洋折衷」「人間味」「原点回帰」「本物感」「芋への愛情」などのキーワードを適切に表すネーミングやデザインを模索していた。
GRAPHからの提案
- さつま芋の素材を活かしながら、さつま芋の上をいく美味しさを追求する姿勢を表現した「芋の上(いものうえ)」というブランド名を考案。松蔵ポテトのスイートポテトを発案したシェフの井上松蔵氏に敬意を払い、「芋の上」を「いのうえ」と読む「芋の上松蔵(いのうえまつぞう)」とした。
- ロゴタイプ(文字)のデザインは、和でも洋でもない「和洋菓子」のニュアンスを表現した。
- 職人やスタッフの「芋への愛」をブランドの核となるメッセージにしようと考え、「芋愛」というスローガンを開発。ブランドロゴに添える「落款」のようなマークをデザインした。今後、スタッフのモチベーションを高めるためのツールにも展開をしていく予定。
- 手作りで作りたてのシズル感を表現するため、デザイナー自身が試食や製造現場の視察を重ねながら、パッケージデザインをはじめ、写真撮影、コピーライティング、店舗デザインなどトータルにディレクションした。
結果
・常設店やポップアップショップの店頭で、ブランド名やスローガンが来店客の目に留まりやすく、コミュニケーションのきっかけになっている。
・常設店の業績は好調で、21年2月から22年2月の1年間の目標を達成。
・大阪の阪神百貨店をはじめ、西武池袋本店、日本橋髙島屋S・C店、新宿小田急ハルク店、そごう千葉店、仙台三越店、栄三越店などでポップアップショップを展開。売り上げは、常に目標の2倍を達成した。
スタッフクレジット
吉本雅俊 / 村部悠蔵
クライアントインタビュー
竹本裕樹氏
株式会社ドンク
営業本部 神戸エリア
エリアマネジャー
Q: 読み間違いやすいブランド名ですが、不安はなかったですか。
たいていは「いものうえまつぞう」と読んでしまいますよね。それでも構わないと決めたのは、他社にはまねできない独自の意味があるからです。少し変わった名前だからこそ目を引くし、「なんて読むんだろう」と興味を持ってもらえると考えました。狙い通り、店頭で読み方や意味を聞かれることは多く、お客様とのコミュニケーションのきっかけになっています。
Q: アトレ吉祥寺の直営店のほか、ポップアップショップでの売れ行きも好調のようですね。
2021年9月に2週間出店した日本橋髙島屋S・C店は特に好調で、売り上げが同店で展開されたポップアップショップの中で年間上位だったそうです。その実績から、22年3月に再びポップアップショップの出店が決まりました。リピーターの方も増えていて「また出店すると知り、買いに来ました」と声を掛けていただくこともあります。
Q: ブランディングに取り組んで良かったことは。
70年以上前から、厳選した素材で一つひとつ丁寧につくっています。その工程の多くは、今も職人による手作業です。私たちにとっては当たり前のことなのですが、それをGRAPHの吉本(雅俊)さんが「芋愛」というスローガンにして表してくれたことで、あらためて自分たちの価値に気付くことができました。店頭に立っていると、ブランド名だけでなく、「芋愛」というスローガンに反応しているお客様もよく見かけます。オリジナリティが高く、印象にも残るネーミングやスローガンを開発できたことは、ブランディングに取り組んで良かったことの一つです。
Q: 今後の展開は。
現在、直営店の2店舗目の出店を計画中です。国内にとどまらず、海外も視野に入れています。デザイン面やパッケージ等、GRAPHさんに相談しながら検討していきたいと考えています。
分析
さつま芋スイーツのブランドは、数多く存在する。そんな中で「芋の上松蔵」は際立つ存在を目指し、同業他社にはない独自の強みを軸にブランディングを行っている。
ユニークなのは、「芋の上松蔵」を「いのうえまつぞう」と読むと決めたことだ。
単にインパクトを狙った、ひらめきのネーミングではない。70年以上続く「松蔵ポテト」の新ブランドであることや、同ブランドのスイートポテトを発案したシェフの存在、そして、長年わたっておいしさを追求し、芋と向き合い続けてきた歴史など、一つひとつ掘り下げながら開発した。
「芋の上」を「いものうえ」だと思っていた人が、実は「いのうえ」だったと気付いたら、その理由を知りたくなるはずだ。そして、理由を知ったら記憶に残り、誰かに伝えたくなる。コミュニケーションの誘発を狙うネーミングは、GRAPHが得意とすることの一つ。その効果は、直営店とポップアップショップの好調な売れ行きが実証している。
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