神戸の靴メーカーが一体となりブランド運営に取り組む、基盤づくりを支援

プロジェクト概要

「神戸シューズ」は、日本ケミカルシューズ工業組合が推進する地域ブランドだ。組合が定める品質基準をクリアした神戸市内および、その周辺で生産された靴メーカーがつくる靴のみ、「神戸シューズ」と認定される仕組みでスタートした。GRAPHは2017年から2年間、ブランディングを担当。靴メーカーの意識改革から取り組み、2019年に高品質で高価格帯のパンプスを取りそろえる「プレミアムライン」を立ち上げた。
www.kobeshoes-premium.jp

課題

  • 海外に誇れる技術力があるのに、アピールできていない。
  • 仕事の多くがOEM生産。企画・販売を主体的に手掛けたことがほぼなかった。

GRAPHからの提案

  • 神戸には世界に誇れる靴づくりの技術がある。その表明にもなるロゴマークを考案した。
  • 靴メーカーが主体的にブランド運営を行っていくために、インナーブランディングに取り組んだ。クリエイティブに関する知見を広げていくために、世界で活躍するクリエイターを招いた勉強会も実施した。

結果

  • ブランド力の向上と販路拡大を目指し、高品質で高価格帯の「神戸シューズ プレミアムライン」を立ち上げた。
  • 参加メーカー7社が団結し、自社の技術やノウハウを共有。0.25㎝刻みで13サイズ、ヒールやトゥ(つま先)のデザインも選択できるセミオーダーの仕組みを構築。東京都内に直営店を出店する準備も進めている。

スタッフクレジット

北川一成 / 吉本雅俊 / 村部悠蔵

クライアントインタビュー

profile_kobeshoes

鈴木浩氏(神戸化学 代表取締役社長)*写真左から4人目
正木勝欣氏(アルジェント 代表取締役社長)*写真右から3人目
日本ケミカルシューズ工業組合

 

Q: プレミアムラインは神戸シューズに参加している7社のみで取り組んでいます。その経緯を教えてください。

(鈴木)以前、神戸シューズに参加している10社で、大手百貨店のプライベートブランドのOEM生産を手掛けたことがあります。プレミアムラインに参加したメーカーは、そのうちの7社です。百貨店のOEMを3年半ほど一緒に手掛けたので、横のつながりがありました。

同業者でありライバルとも言える存在ですが、靴づくりの街として神戸を発展させたいという思いは一緒。昨今、つくり手が消費者にダイレクトに販売する時代へと変わりつつあり、僕らもそれに対応していく必要性を感じています。そこで、まずは7社がチームとなってブランディングに取り組み、「自分たちでつくって売る」というノウハウを身に付け、日本ケミカルシューズの組合員さんに共有していこうと考えました。

Q: ロゴマークのデザインを見たときの率直な感想は。

(鈴木)最初は、違和感がありました。その違和感こそが記憶に残り、長く使い続けることができる仕掛けだと説明を聞いたのですが、2年使い続けた今、その通りだと実感しています。類似しないデザインに愛着がわいているし、飽きることもありません。

Q: プレミアムラインのパンプスは、シンプルで美しいデザインです。ブランディングに取り組んで良かったことは。

(正木)スペックを整理して、そぎ落としても素晴らしさを伝えられることが、デザインの本質なのだと理解できたことです。これまで僕らは、付加価値となる機能を全て搭載することがサービスだと思っていました。引き算のデザインには、ハイレベルな靴づくりの技術が必要で、神戸シューズだからできることだと思っています。
(鈴木)プレミアムラインの価格は、日頃つくっている靴の倍以上。プロダクトのアドバイザーである靴職人の五宝賢太郎さんは、価格に見合うように、いつも以上にきめ細やかにものづくりをする姿勢や意識についても客観的に助言してくださった。とても勉強になりました。

分析

今回のブランディングのポイントは、OEM生産が中心の靴職人たちの意識改革に取り組んだことだ。デザインやブランドづくりのリテラシーや創造性を高め、地域ブランドの運営にメーカー各社が主体的に取り組む基盤を構築した。ロゴマークは、世界に誇れる技術を持つ職人たちの士気を鼓舞する役割も担っている。

ブランディングのプロセス

神戸市内およびその周辺は、合成皮革をはじめとするケミカルシューズが誕生した1952年以降、靴の産地として栄えてきた。日本ケミカルシューズ工業組合に加盟するメーカーの年間生産数量のピークは、年間生産量のピークは昭和40年代後半。生産量は1億足を超え、その約40%を海外に輸出していた。だが、それ以降、生産数量は徐々に低下し、2016年は1419万足という状況だった。

産地の消滅を防ぎ、再び活性化させるために、組合が取り組んだことは「神戸シューズ」と称した地域ブランドの立ち上げだ。組合が定める品質基準をクリアしたシューズメーカーがつくる靴を「神戸シューズ」と認定する仕組みで、産地の知名度向上を目指してきた。

ただ、各メーカーは長年にわたってOEM生産を手掛け、企画や販売の経験はほぼ皆無。2017年には東京・銀座で「神戸シューズ」の直営店をオープン(現在は閉店)したが、ブランドとして認知されているとは言い難かった。店頭には神戸シューズと認定されたメーカーの商品が並んでいたが、ブランド共通のタグはなく、靴のデザインにも統一感はなかった。

「知名度が上がらないことに危機感を持ち、ブランディングの専門家との連携が必要だと思った。知人の紹介で、兵庫県に本社があり、ブランディングの実績があるGRAPHさんと取り組むことになった」と日本ケミカルシューズ工業組合の副理事長を務める鈴木浩氏(神戸化学)は振り返る。

GRAPHに相談した時点で決まっていたのは、神戸シューズと認定された39社のうち、技術に定評がある7社の若手経営者らでブランディングに取り組むこと。7社が参加すること以外、一切決まっていなかった。

つくり手のモチベーションを高めるロゴマーク

神戸シューズの課題の一つは、世界に誇れる技術力を持っているにも関わらず、アピールできていないことだった。ものづくりには長けていたが、その自覚も薄かった。そんな自分たちの価値に気づくきっかけとなり、旗印のような役割となったのが、いち早くデザインしたロゴマークだった。

北川はヒアリングや工場見学を行った直後に、ロゴマークをデザインした。目を引くのが、書のように書き手の身体性から生まれる規則性のない造形と間だ。神戸から世界へ――そんな北川からのメッセージが込められたデザインで、ロゴは日本語とアルファベット表記による2種類用意した。

アルジェントの正木勝欣さんは「北川さんから、ロゴは海外でも通用するように考えたと聞いて、とてもワクワクしました。それまでは、靴の産地の代表格である東京・浅草をベンチマークしていたが、世界にも目が向くようになった。自分たちの仕事に誇りを持って仕事するためにも、もっと知見を広めていこうとモチベーションも高まった」と話す。

具体的に取り組んだことは、靴職人たちの意識改革だった。GRAPHが持つ広い人脈を生かし、世界で活躍するファッションデザイナーの串野真也氏や靴職人の五宝賢太郎氏、新丸ビル7階にある丸の内ハウスの統括マネージャーを務める玉田泉氏などを講師として招聘。2017年10月から毎月1回定例会と勉強会を実施し、デザインやブランド運営にまつわるリテラシーを高めていった。

地域ブランドに欠かせないことは、各メーカーが一体となって主体的に取り組むこと。その基盤をつくった上で、2019年10月、神戸シューズの上位ブランドとして「神戸シューズプレミアムライン(以下、プレミアムライン)」を立ち上げた。

ビジネスモデルも一新、工場直販でセミオーダー、原価率も利益率もアップ

各メーカーは長年にわたって、女性が快適に履けるパンプスの機能性とデザイン性を追求している。女性の心に寄り添い、靴を通じて応援しているとも言い替えられる。そこで、ブランドのコンセプトは「働く女性を応援する靴」に決定した。

「人生を変えるパンプス」というテーマで、これまで以上にデザイン性と機能性を高めた。参加メーカー7社が協力して製造する体制を整え、0.25㎝刻みで13サイズ、ヒールやトゥ(つま先)のデザイン、素材、カラーも選択できるセミオーダーの仕組みを構築。片足ずつ、サイズ違いでも購入可能で、組み合わせのバリエーションは56種類となる。

ビジネスモデルも一新。工場直販のセミオーダーにすることで、在庫リスクを軽減している。合成皮革の靴は安価なイメージがあるが、プレミアムラインは1万7600円(税込み)。高品質で高価格だからこそ、原価率だけでなく利益率も高いことが特徴の一つだ。

現在、プレミアムラインのブランディングは鈴木さんや正木さんを中心に、7社のメーカーが組合とともに継続して取り組んでいる。GRAPHとのブランディングで得た知識やノウハウを基に、百貨店の催事では、足のサイズを3D計測機で採寸するサービスを行ったり、大手企業でモニター調査や販売会を実施したり、知名度を高めるための施策を自ら企画し実施している。

東京都内で直営店を出店する計画もある。新型コロナの流行で進行は遅れているが、実現に向けて話し合いを進めているという。

編集・執筆:西山薫(デザインライター)