世界的に有名なアートによる街づくり、前衛的なロゴマークが認知向上の一助に

プロジェクト概要

「ファーレ立川」は、JR立川駅北口にある公共施設や商業施設、ホテル、オフィスビルなどで構成される街区の名称だ。東京・立川市が米軍基地跡地を再開発し、1994年に誕生した。特徴は、街全体に、36カ国92人の作家による109点のアートが点在していること。作品は、車止めやベンチ、街灯、ビルの換気口など、街の機能を併せ持ったパブリックアート。市民が主体となって運営するアートによる街づくりのモデルケースとして、世界的に広く知られている。GRAPHは2016年、シンボルマークのデザインを手掛け、通年で行われているアートイベントのポスターやチラシ、グッズ、サインなどの制作を担当している。

課題

  • ファーレ立川のアートのメンテナンスは、ビルの所有者と立川市、立川市民によるボランティア団体「ファーレ倶楽部」を中心とした、ファーレ立川アート管理委員会が主体となって行っている、世界的にも類を見ないパブリックアートのプロジェクト。完成後20年のアート作品の大規模メンテナンスの後に、ブランディングに着手した。アートのある有機的な街づくりを多くの人に周知させるために、シンボルマークが必要だった。

GRAPHからの提案

  • 黄金比による3つの長方形と3色(CMYとRGB)を重ね合わせたマークを考案。継続したプロジェクトであり、多様性というテーマにも合わせ、重なりによってさまざまな色が生まれるようにデザインした。
  • ロゴは日本らしさの象徴として、漫画をイメージしたポップな書体のカタカナでデザインした。

結果

  • 抽象度の高いデザインにより、アートを中心とした街全体のプロジェクトであることが伝わりやすくなり、広報活動がスムーズに行われるようになった。
  • ガラス製のサインは、アート性だけでなく、文字の見やすさと分かりやすさなど機能性も重視した。情報過多な街の中でも際立ち、ファーレ立川の認知向上の一助になっている。

スタッフクレジット

北川一成 / 八戸藍 / 山田晴香

クライアントインタビュー

SONY DSC

北川フラム氏

株式会社アートフロントギャラリー 代表
アートディレクター

            

Q: ファーレ立川のロゴマークをGRAPHに依頼した理由を教えてください。

北川一成さんにお願いしたのは、ファーレ立川の意義や価値を理解した上で、個性の強いデザインを生み出していただけると思ったからです。期待していたのは、一般的な美しいロゴマークではなく、街の中でも際立ち、アート作品の一つのようになるもの。黄金比と色でデザインした公式のロゴマークは7種類あり、色の重ね方によって表現が異なります。多様性をテーマにした街づくりのプロジェクトにふさわしい変化するロゴマークで、シンプルな設計ですがインパクトは強い。期待以上のデザインでした。

Q: 管理委員会の方々にお披露目したときは、どんなリアクションでしたか。

特にカタカナのロゴに関しては、非常に驚いていました。ただ、今までにない新しいものを見たときは、たいてい引いてしまうものです。だからこそ印象に残り、記憶されるのだと思います。私は、迷うことなく採用しました。

Q: 毎年実施されているアートイベントのポスターやチラシのほか、サインも制作しました。

チラシの表面は毎回、ロゴマークでデザインされており、ファーレ立川の認知向上にもつながっていると思います。ガラス製のサインも、ロゴマークをモチーフにした存在感のあるデザインです。ファーレ立川をアートの街と印象づける役割も果たしています。

分析

ファーレ立川のマークは、黄金比を用いたベーシックな構造でありながら、3つ形と色を重ね合わせるという設計によって抽象度を高めている。モチーフに対する考え方も独特だ。北川は、人間固有の活動と言われるアートを黄金比に見立て、人間らしさを3つの形と色の重なり表現しようと考えた。さまざまな色が生まれる現象は、男女から生命が誕生する広がりを表したものだという。

北川が得意とする前衛的なデザインだが、見慣れてくると親しみが湧いてくる。その要因は、カタカナのロゴの効果だろう。違和感を放ちながら美しく、なんだか楽しい気持ちにもなる。感情を揺さぶるデザインの極意は、「余白のとらえ方」にあるという。北川が考える余白とは、オブジェクトを取り囲む「人や社会」も含まれる。一見するとズレているようだが、本質的にはズレていない。そんな深みのあるデザインは、繊細な観察眼と審美眼、俯瞰した視点から生まれている。

編集・執筆:西山薫(デザインライター)