創業時から売り上げ毎年20%増、違和感のあるデザインとネーミングでブランド認知も向上

プロジェクト概要

脱サラファクトリーの「自凝雫塩(おのころしずくしお)」は、兵庫・淡路島の海水のみでつくる手づくりの塩だ。薪と鉄釜で海水を煮詰める、昔ながらの丁寧な製法で行っている。GRAPHは、2013年の創業時からブランディングを担当。会社や商品のネーミングのほか、ロゴマークやパッケージデザインも手掛けた。

課題

  • 起業したばかりの新会社がつくる無名の商品なので、ブランド力がない。
  • ブランディングに投資する予算が限られていた。

GRAPHからの提案

  • 一度聞いたら忘れられず、コミュニケーションのきっかけにもなる社名にする。
  • 塩の特徴や塩づくりへの思いが伝わるように、紙製のパッケージにして面積を大きく取り、経営理念や製造方法などの文章や、生産者の顔写真を入れる。
  • 初期投資を抑える成果報酬型のロイヤルティー契約にする。

結果

  • 売り上げは創業年から現在まで、約1.2倍のペースで伸長し続けている。
  • 口コミによる反響のみで、取引先は約500社をキープ。
  • 創業時からの世界観を発展させ、より丁寧な製法で希少性が高い新商品を開発。

スタッフクレジット

北川一成 / 村部悠蔵

クライアントインタビュー

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末澤輝之氏
株式会社脱サラファクトリー 代表取締役

自凝雫塩ブランドサイト

            

Q: GRAPHにデザインを依頼する前、他のデザイン事務所にも相談していたそうですね。最終的にGRAPHに決めた理由は。

北川さんは最初のヒアリングのとき、私がつくる塩について興味を持って聞いてくれました。一方、他のデザイン事務所は、まず自分たちが手掛けた仕事の説明をはじめて、すぐに費用の話をするところがほとんど。塩について聞かれないことに違和感があったんです。北川さんはパッケージデザインの役割や、経営戦略についてもアドバイスしてくれて、どの話も納得できた。それでGRAPHさんにお願いしようと決めました。

Q: 一度聞いたら忘れられない、インパクトのある社名です。採用に迷いはなかったですか。

コミュニケーションのきっかけをつくる必要性や、一度聞いたら忘れられない社名する効果など、北川さんの狙いは理解できました。ただ、想像を超えるネーミングだったので、1週間くらい悩みました。今は、採用して本当に良かったと思っています。実際「なんで脱サラファクトリーという名前なの?」と初対面の取引先の方には必ず聞かれるので、狙いどおりコミュニケーションのきっかけになっています。

Q: 売れ行きは順調ですね。20年9月には新商品も発売しました。

売り上げを伸ばすために釜の数や人数を増やすと、つくり手の顔が見えにくくなってしまう気がしています。塩を手づくりするスタイルは崩さず、儲けを増やすためには、利益率を高めていくしかありません。そこで、通常の塩づくりの過程で採れる、希少な大粒の塩の販売を始めました。その商品開発についても、GRAPHさんは親身になって相談に乗ってくださった。とても心強いパートナーだと思っています。

分析

好調な業績は、創業時から始めたブランディングの効果が大きい。課題はブランド力の不足をどう補うか。その解決策として、脱サラして起業したことが伝わる社名をはじめ、塩づくりの思いが伝わるようにパッケージに経営理念や商品の特徴を記載したり、独自性の強いマークを目立たせたり、感情が揺れ動く仕掛けをいくつも盛り込んだ。ユニークで違和感がありながら、バランスは崩さず品よく仕上げる。そのデザイン性の高さは、GRAPHの真骨頂だ。

ブランディングのプロセス

脱サラして塩づくり。塩への思い入れを知りたくなるネーミングと、イメージを増幅させるデザイン。

着目したのは、「脱サラ」というキーワード。脱サラして塩づくりをしていることが伝われば、きっと特別な思いがあると考えたり、どんな塩なのか知りたくなったりするはず。そこで考案したのが、「脱サラファクトリー」という社名だ。
「自凝雫塩(おのころしずくしお)」という商品名は、国生み神話を基に北川一成が考案。地域に根差してつくる末澤氏の塩は、淡路島を代表する商品へと発展していく。そんな思いを込めて、古(いにしえ)の神々が「雫」として淡路島を生んだという神話をモチーフに、価値ある塩が生まれるイメージを内包した。

ネーミングの開発と並行して、パッケージデザインも検討。一般的な塩のパッケージでは中身の見える透明素材が多いが、あえて大きめの紙製パッケージを採用。売り場での存在感を高めつつ、末澤氏の塩づくりへの思いや塩の特徴などが伝わるように、経営理念や塩の特徴などをつづった文章や写真をたっぷりと記載した。
インパクトのあるキャラクターのようなマークは、雫や勾玉(まがたま)、鳥のくちばしのようにも見える独自性の強いデザインだ。狙いは、遠くからパッケージを見ても目立たせ、ブランドを認知させること。最新の認知科学では、複数の意味を感じるほうが、人の記憶に残りやすいと言われている。それを踏まえ、自凝雫塩のマークも、あえてイメージを1つに限定しなかったという。

口コミで評判に。取引先は500社、リピーターやファンも増加

商品の発売直前に、GRAPHがテレビ番組「カンブリア宮殿」で特集された。脱サラファクトリーのブランディングは当時GRAPHが手掛けていた最新事例で、北川の強い推薦もあり、淡路島での塩づくり現場や自凝雫塩の商品も番組内で紹介されるという好機にも恵まれた。末澤氏の真摯なものづくりの姿勢や、ユニークな社名も話題となり、問い合わせの電話が殺到するという出来事があった。その後、商品が発売されると口コミで評判となり、取引先も次々と決まったという。販路は淡路島の道の駅や土産物販売店をはじめ、全国のオーガニック食品を扱う店舗やネットショップなど。リピーターやファンも多く、売り上げは毎年約20%増。取引先は500社をキープしているという。

編集・執筆:西山薫(デザインライター)