プリンスホテルのPB、スキンケア商品はコロナ禍も売り上げは前年同水準と堅調。ナチュラルミネラルウォーターの出荷数は、当初計画の約4倍に(※)

プロジェクト概要

ASAGIは、プリンスホテルが松倉クリニック代官山の院長で美容皮膚科医の貴子氏の監修のもと開発したスキンケアブランド。特徴は、プリンスホテルが運営する「六日町 八海山スキー場」の水源で採取した、硬度7mg/ℓという希少性の高い超軟水を使用していることだ。ASAGIブランドの認知を高めるために、外販商品としてナチュラルミネラルウォーター「ASAGI NATURALLY SOFT(アサギ ナチュラリー ソフト)」も商品化した。
GRAPHは、商品ブランディングを担当。ブランドメッセージの提案から、ロゴマークやパッケージのデザイン、ブランドブックとホームページのディレクションなども手掛けている。www.princehotels.co.jp/asagi/

課題

  • プリンスホテルで初となる、スキンケア商品のプライベートブランド。プリンスホテルがなぜ、水にこだわったスキンケア商品を開発するのか。ブランドへの共感を得るためにも、プリンスホテルが手掛ける必然性や、商品の価値を社内外に発信すべきだと考えた。

GRAPHからの提案

  • 当初、パッケージデザインのみの依頼だったが、ホームページやブランドブックの制作を提案した。世界観をつくり込む過程で、「人をうるおす。心をうるおす。記憶に残る『水』でありますように。」というブランドのメッセージや商品のコンセプト文を開発。言語化しきれないニュアンスは、現地で撮影したイメージ写真で伝えている。
  • 貴子氏が命名したブランド名「ASAGI」の由来は、日本の伝統色「浅葱色(あさぎいろ)」。
    水源近くの八海山の山あいの風景や、天然の湧き水から貴子氏がイメージした浅葱色を軸に、水の味わいやスキンケア商品の使い心地を踏まえ、GRAPHの印刷職人とともにオリジナルの淡い水色を開発した。
  • 水にこだわった商品であることが触覚からも伝わるように、商品の外箱は紙や印刷加工を工夫してしっとりした質感に仕上げた。

結果

  • ASAGIのスキンケア商品は、プリンスホテルの宿泊プランやリラクゼーションサロンなどで使用されている。ホテルでの利用をきっかけにリピーターになるケースが多く、オンラインショップの売れ行きは堅調。コロナ禍であってもほぼ前年と同水準をキープしている。
  • ASAGI NATURALLY SOFTのプリンスホテルを含めた全体の出荷数は、当初の計画の約4倍(※)。客室に導入する水は各ホテルの判断で決めているが、ASAGI NATURALLY SOFTを選定するホテルが増えている。
  • ASAGI NATURALLY SOFTは、紀ノ国屋全店と一部高級スーパーでも販売している。2019年度の売り上げは、前年比20%増。特に紀ノ国屋の都心店舗での販売も好調で、働いている女性のリピーターが多いという。

スタッフクレジット

吉本雅俊 / 榎本ちひろ

クライアントインタビュー

mizu

福場輝彦氏
株式会社プリンスホテル
フロンティアビジネス事業部
チーフマネジャー

ASAGIブランドサイト 

            

Q: ASAGIを開発したきっかけは。

プリンスホテルが運営している新潟県南魚沼市にある「六日町八海山スキー場」では、天然の湧き水が採取できます。その水がナチュラルミネラルウオーターの中でも希少な硬度7の超軟水で、とてもおいしいんです。少しでも多くのお客様に届けたいと考え、2012年に水事業を立ち上げ、商品化しました。
まずは、全国のプリンスホテルの客室や売店、高級スーパーマーケットで取り扱いを開始。その後、水事業の拡大を目指し、湧き水を使ったPB商品の開発に着手しています。その第1弾が、スキンケアブランドのASAGIです。ASAGIの他にも、緑茶や日本酒なども開発し、販売しています。それらのブランディングも、GRAPHさんと一緒に行っています。ちなみに、ASAGI NATURALLY SOFTの売り上げの一部は、南魚沼市に寄付しており、地域の環境保全に役立ててもらっています。環境への取り組みや、地域活性につながる活動として、これからも継続していきます。

Q: ブランドカラーの淡い水色が印象的です。

コスメでもミネラルウオーターでも、あまり見かけない色ですよね。ニュアンスカラーでマットな質感の再現は難しかったのですが、その分、新鮮味のある色なので目を引くことができていると思っています。
少し前にプリンスホテルのお客様をご招待するマルシェを開催し、ASAGIの商品も販売しました。そのときお客様から「ホテルで利用してからリピートしている」「お水、おいしいですよね」といった声を頂くことができたんです。ブランド認知が高まっていることを実感しています

Q: コロナ禍でも売り上げが伸びているそうですね。

プリンスホテルの客室にASAGIを導入するか決めるのは、各ホテルです。コロナ禍で宿泊者が減少している中、他社のホテルとの差別化は必須。だからこそ、改めてプリンスホテルのオリジナル商品に注目が集まっているんです。
ブランドブックやホームページでコンセプトを明確にして、世界観もつくり込んでいただきました。そのため、社内でもASAGIの魅力が共有できているんです。私たち自身も、ブランドブックで使用した言葉をセールストークで使用するなど、とても役に立っています。
デザインへの投資は費用対効果が見えにくいといった課題がありますが、絶対に必要だと思っています。GRAPHさんは単に色や形を決めて終わりではなく、売り方も含めてブランドの在り方を一緒に考えてくれるので、とても心強い。何でも相談できるパートナーであり、これからも継続してお付き合いできたらと思っています。

分析

ASAGIのブランディングのポイントは、ブランドや商品の本質を愚直に問いかけ、考え抜き、論理的かつ感覚的に表現していることだ。
なぜ、プリンスホテルがPBのスキンケア商品を販売するのか。同社が水事業を手掛けるきっかけや、水の特性。それが、ASAGIというスキンケアとなったのはなぜか。点在していた情報を集約し、まずは言語化した。

アートディレクションとデザインを担当したGRAPHの吉本雅俊は、クライアントにヒアリングしたり商品を使用したりするだけでなく、プリンスホテルはもちろん、水源のある八海山にもコピーライターや写真家とともに足を運んでいる。そこで得た自らの感覚を踏まえながら、清らかで存在感のある世界観を構築した。

プリンスホテルの姿勢やサービスから感じたことは、宿泊者が気づかないところまで気を配る。そんな行き届いたサービスの心地良さ。天然の湧き水からは、派手さはないが、身体に染みこむ優しさを感じたという。それぞれの体験が記憶に残り、価値になる。そんなホテルと水の潜在的な魅力を、デザインに置き換えた

その象徴とも言えるのが、ASAGI NATURALLY SOFTのパッケージだ。一般的な形状で、華美なデザインでもないが、紀ノ国屋の店頭で存在感を示している。売れ行きが好調なのは、自己主張しすぎないデザインだからこそ。ASAGIを初めて知る人も、安心して手に取ることができるはずだ。超軟水の水のおいしさは記憶に残り、リピートする。本質的なブランディングによって、好循環を生みだしている事例の一つだ。

編集・執筆:西山薫(デザインライター)