Vol.12
アートの文脈からも見えてくる、
北川一成の空間性

千葉由美子

Yumiko Chiba Associates 代表取締役

ちば・ゆみこ●1998年アーティストマネージメント及びプラニングオフィスとしてYumiko Chiba Associatesを設立。高松次郎のエステート(The Estate of Jiro Takamatsu)、自社ギャラリー運営、アーティストプロモーション・管理業務を手がける一方で、美術館での企画、アート・バーゼル香港、パリ・フォトなどの国際的なアートフェアへの出展、企業のアートワークやギャラリースペースの運営・展覧会企画といったコーディネート業務を行う。
Yumiko Chiba Associates

タイポグラフィデザインに見る文字の空間性

北川さんとお話をするようになったきっかけは、2022年に六本木へギャラリーを移転した際、株式会社ファミリアの岡崎忠彦社長から「きっと話が合うと思います」とご紹介いただいたことです。当時ギャラリーで開催していた彫刻家・堀内正和の個展をご覧になって、北川さんは「高校生のときから堀内正和が好きで、尊敬する芸術家なんです」とおっしゃり、以来「千葉さんのところの企画展がおもしろい」と、ご案内を送るたびに足を運んでくださっていました。

2023年に21_21 DESIGN SIGHTで開催された「もじイメージGraphic展」で、改めてこれまでに北川さんが手掛けた数々のタイポグラフィを拝見して、北川さんは間違いなく、デザインにおいてタイポグラフィの重要性をとらえ、ひとつの新しい流れを作った方だと感じました。

文字は情報を伝えるものとしてだけでなく、「空間のひとつ」として存在すべきではないか。このことは、私自身が進めている芸術をめぐる批評的な議論の場でもたびたび話題に上がるものです。

北川さんが手掛けるタイポグラフィは、まさにその空間性を持っています。グラフィックデザインは平面上のものですが、余白や配置のバランスによって文字が三次元化されている。だからこそ視覚的にも新しいし、印象に残ります。そうした文字の空間化を、直感だけでなく、意識的に行っているところが北川さんのすごさです。


最近、北川さんに、写真家・鷹野隆大の個展のカタログやポスター、フライヤーのデザインをお願いしたのですが、上がってきたデザインは本当に素晴らしいものでした。単なる「写真家の個展の告知物」ではなく、まさに鷹野隆大が写真を通して表現しようとしていることや、その視点そのものがデザインされていたんです。

きっと北川さんはCGなどを使わなくても、頭の中で三次元化ができる。本質をとらえる力、そしてデザインの空間性が著しく優れていらっしゃるのだなと思いました。空間へのアプローチはアートのメソッドのひとつでもありますから、アーティストと同じような発想でデザインに取り組まれているのでしょうね。

GRAPHは北川デザインを生み出すプラットフォーム

北川さんがそのようなデザインを生み出せる背景には、GRAPHという存在があることもとても大きいと思います。アーティストとギャラリーの関係もそうですが、アーティストのポテンシャルを最大限引き出していくことが重要な役割です。どんなに優れたアーティストでも、才能が花開いて、発展していくためには、他者の力が必要です。

北川さんの自由な発想や言動を分かった上で、失わせることなく、そのまんまやりたいようにさせながら、うまくマネジメントしていく。GRAPHがクリエイティブなプラットフォームとして機能していることが、北川さんの絶えることのない向心力につながっていると思っています。

北川さんはとても好奇心が旺盛な方。それから人に対しても物に対しても偏見を持たず、とてもオープンな方ですよね。常にそうあるって、北川さんくらいのキャリアをお持ちの方だとなかなか難しいことだと思うのですが、北川さんはいつも屈託がなくて自由。いつも「ゼロになれる」方なのでしょう。

今後は、作家のひとりとして参加していただく企画展も予定しています。デザインの枠を超えた、これからの活動にも注目しています。

      

編集:八木美貴