vol.11/スペシャルインタビュー
急成長しているスタートアップ「UPSIDER」
妥協なき世界観づくりのプロセス

宮城徹/水野智規

株式会社UPSIDER

写真右:みやぎ・とおる●株式会社UPSIDER 代表取締役
東京大学卒業後、2014年にマッキンゼー・アンド・カンパニーへ新卒入社。東京支社・ロンドン支社にて、銀行オープンAPI等のデジタル戦略策定、手数料体系や店舗配置の最適化等、大手金融機関の全社変革プロジェクトに携わる。2018年、現 共同代表取締役の水野とともに株式会社UPSIDERを創業。「挑戦者を支える世界的な金融プラットフォームを創る」をミッションに、法人カード「UPSIDER」およびビジネスあと払いサービス「支払い.com」を提供。

写真左:みずの・とものり●株式会社UPSIDER 代表取締役
アビームコンサルティング株式会社にて、金融機関のインフラの設計・開発エンジニアとしてキャリアをスタート。その後、株式会社ユーザベースにて、NewsPicksの立ち上げに参画した後、グループ全体のマーケティング責任者を務める。起業当時の課題意識や原体験をもとに、代表取締役CEOの宮城と2018年に株式会社UPSIDERを共同創業。

株式会社UPSIDER


写真左から、宮城徹さん、水野智規さん(ともにUPSIDER)、吉本雅俊(GRAPH)

法人向けカード会社UPSIDERが急成長しています。ミッションは「挑戦者を支える世界的な金融プラットフォームを創る」。過去の財務諸表ではなく、リアルタイムの口座情報などを基に与信を行い、上場前後のスタートアップでも月々の限度額を高額に設定しています。

新しい金融サービスの仕組みを構築・提供し、現在同社が提供するサービスの顧客は約2万社(2023年4月時点)。法人カード「UPSIDER」の累計決済額は1000億円を突破し、上場企業の顧客も急増しています。

GRAPHは、UPSIDERのカードやロゴデザインを担当しました。サービスのローンチから丸2年。ダークグレーのカードは、UPSIDERの象徴とも言えます。そんな存在感のあるデザインは、一体どのように生まれたのでしょうか。

今回、UPSIDERの代表取締役の宮城徹さんと水野智規さんをGRAPHのオフィスに迎え、デザインを担当したアートディレクター、吉本雅俊とともに制作のプロセスを振り返りました。
(聞き手:西山薫)

事業への情熱を共有して意気投合

吉本雅俊(以下、吉本) 本日はありがとうございます。ローンチから丸2年が経ちました。最近は、さまざまなメディアで紹介されていますね。

宮城徹さん(以下、宮城) おかげさまで、少しずつ浸透し認知されてきたと感じています。カードのデザインが「かっこいい」と言われることも多いんですよ。

―――数あるデザイン会社の中でGRAPHに相談した理由は。

吉本 たしか、お知り合いのご紹介で、問い合わせてくださったんですよね。

水野智規さん(以下、水野) そうです。ロゴやカードのデザインは、ブランドづくりの一環なので、僕らと一緒にじっくり取り組んでいただけるデザイン会社を探していました。
そんなとき、知り合いが「GRAPHさんおすすめだよ」とアドバイスしてくれたんです。ブランディングはもちろん、印刷物やパッケージデザインなど「ものづくり」にも長けているGRAPHさんなら併走していただけるのではないかと思い、ご連絡しました。

宮城 最初の打ち合わせは、当初1時間くらいの予定だったんですよね。それが、2時間以上話し込み、その場で意気投合して「お願いしよう」って(笑)

水野 そうそう。「やろうよ」と先走ってしまって(笑)

吉本 (笑)

―――その場で即決されたのですか。決め手は。

水野 吉本さんは、僕らの話をじっくり聞いてくれたんですよね。

宮城 GRAPHさん以外にも、いろいろなデザイン会社も訪問していたのですが、実はあまり手応えを感じられなかったんです。ただ、それは誰のせいでもなくて。その頃、僕らは登記したばかりで、自分たちの業務内容を論理的に言語化もできていなかった。ビジョンも壮大でしたから。

―――吉本さんはお二人に初めて会ったとき、どう思われましたか。

吉本 フィンテックのサービスについては、僕も正直なところピンときてなかったんですけどね(笑)。どの仕事でも言えることですが、「熱いふつふつしたもの」を持っている人が主体的に取り組むことがとても重要だと思っていて。お二人からは、何としてでもやり遂げようとする情熱や強い意思が伝わってきました。

水野 その頃は法人向けカード事業という方向性は決まっていたけど、会社で働く“個人向け”のサービスを考えていたんですよね。

宮城 実績がなくても、挑戦できる世の中をつくりたい。挑戦者側に寄り添うサービスを提供したい。その思いは、当時から変わっていません。

吉本 お二人の熱い思いを共有して、「お願いしたい」と言われたものの、初対面でもあったので「一度、落ち着いて考えましょう」とお伝えしたような気がします。

水野 そうでした。勢いだけでなく冷静になって一度考えられたので、よかったです。

吉本 その後、割とすぐに正式なご依頼をいただき、再度打ち合わせを設定しました。

PLA_NEからUPSIDERへ その理由

―――具体的に、どのように進めていかれたのですか。

吉本 サービス名(社名)から一緒に考えたい、というお話でしたよね。

水野 僕らのオリエンをもとに吉本さんが提案してくれたのが、「PLA_NE」(プラネ) 」という名称でした。

吉本 公平性を目指したサービスだったので、そこから名称は考えました。PLA_NEは造語で、Planeや Place、Platinum、Network、Platformといったさまざまな意味が内包しています。今までにない新しいサービスでもあったので、未来的なイメージとしてPlanet=宇宙も彷彿とさせる名称を考案しました。

水野 コンセプトは僕らのオリエンどおりでしたし、名称も合意しました。それでロゴやカードのデザインを進めていたんですよね。だけど、サービスのリリースを目前に名称だけ見直すことにしたんです。

宮城 音の響きもいいし、ロゴの造形も気に入ってました。だけど、プレーンやプレーネと呼び間違えられる可能性もあり、名称だけひっかかってしまって。

―――つまり、名称を再検討することになったのですね。

水野 現在「挑戦者を支える世界的な金融プラットフォームをつくる」というミッションを掲げています。そのときは、まだ明確に言語化できていませんでしたが、吉本さんは僕らの意志を汲み取ってくれました。
それで、「公平性」であることを「ミニマルでシステマティックなデザイン」で表現してくださった。そのコンセプトは良かったのですが、名前だけもう少し意味を絞り、サービス内容を伝わりやすくしたいと思ったんです。

宮城 たしか金曜日の夜、食事会の途中で吉本さんに電話をしたはず。

吉本 これまでとは違うトーンで「ちょっと話したいことがある」と言われ、別日にお会いしたら開口一番、「名称を『UPSIDER』に変えたい」と。

水野 デザインが進行している途中だったので、本当に申し訳なかった・・・。

宮城 もちろん、僕も連絡するとき葛藤しました。ただ、自分の直感は大切にしたいと思ったんです。あと、僕と水野がパートナーであるのと同じように、吉本さんに対してもリスペクトを持って仕事していたからこそ、正直に伝えなければと。

―――相談の時点で「UPSIDER」に変えることは決めていたんですね。

水野 せめて代案がないと。スタッフみんなでアイデアを出し合って、UPSIDERは宮城さんの案だったはずです。

―――そのとき、吉本さんは率直にどう思われましたか。

吉本 一度デザインが決まった後に、サービス内容が明確になり、伝えることがクリアになったので、コミュニケーションもスピード感を持たせるべきだと理解しました。もちろん、多少残念な気持ちはありましたが、潔い決断に同調し、気持ちはすぐに切り替わりました。

コンセプトはそのまま、1日でデザインを刷新

―――GRAPHの事務所に集まって、どのようにデザインを決めていかれたのですか。

水野 社内のデザイナーがデザインした案を、いくつか持っていったはずです。

吉本 そのデザイン案を起点に、方向性を絞っていくことから始めました。例えば、明朝なのかゴシックなのか、大文字だけなのか、小文字もいれるか、ざっと手を動かし、その場で議論して、また複数案考えて・・・というのを繰り返しました。

吉本 できれば避けられたらよかったのですが。なんか合宿みたいで、楽しかったですよね。

―――印象に残っているやりとりはありますか。

宮城 デザインのディテールについて議論したのを覚えています。たしか、UPSIDERの真ん中の「I」は最終案より、最初はもっと太かったですよね。

吉本 読みやすさや分かりやすさだけではない、何かフックが必要だと思って。何かしらのノイズのようなものを入れないと、人の記憶に残りにくい。目は引くけど、あざとすぎない。そのバランスについては、率直な意見を出し合い、議論しましたね。

宮城 その当時テクノロジー系の会社のロゴは細いフォントが流行していたんですよね。でも、そこをあえて太いフォントでチャレンジすべきだよね、とか。

水野 お金を扱うサービスだから「信頼感」や「安定感」は重要ですからね。

―――集まったその日に完成させたのですか。

吉本 そうです。振り返ってみれば、いい思い出。

宮城 僕もそう思っていました。都合の悪いことは忘れました(笑)

デザインに投資する意義

―――現在、ビジネスを展開されていく中で、ロゴやクレジットカードのデザインは、どのような役割ですか。

宮城 想定以上の働きをしてくれています。正直、これほどデザインが力になってくれるとは思っていなかった。僕らが目指す中立的でクリーンな世界観が、きちんとお客様に伝わっている実感があります。

水野 お客様にとって、UPSIDERのカードを持っていることがステータスになりつつある。それは、カードのデザインのかっこよさも、後押しになっていると思います。

―――デザインへの投資は費用対効果を算出しづらいため、迷われる方も少なくありません。それに対して、お二人はどうお考えですか。

水野 当時、予算に余裕は全くなかったのですが、これまでの経験からも絶対にデザインに投資すべきだと考えていました。もし、迷われている方がいるならば、頑張るべきポイントだと思います。
僕らにとってロゴやカードのデザインは、自分たちの姿勢や考えを視覚的に表現したものです。少し違うかもしれませんが、お客様と面と向かってコミュニケーションするとしたら、服装やおもてなしの仕方を真剣に考えますよね。デザインしないというのは、寝間着のまま、寝ぼけた状態で会うのと変わらない気がするんです。

宮城 僕自身、実は最初、デザインの価値をあまり理解していませんでした。だから迷われる方の気持ちも分かります。ただ、今回、GRAPHさんに依頼したことで、その価値を体感しました。自分たちのアイデンティティとなるデザインの価値は、時間の経過とともに蓄積されていき、自分たちの資産になっていく。それを今、実感しているところです。

水野 覚悟の問題ですよね、きっと。ロゴだけで説得できるわけではないですが、きちんとデザインされたものって、自分たちの本気度が伝わるような気がするんです。そのためにも、プロの力を借りることは必要だと思います。

吉本 UPSIDERのロゴは、とにかくスピード重視でデザインしたので、あらためて見ると気になるところがいくつかあって・・・。

水野 確かにマイナーチェンジは必要かもしれない。僕も少し気になるところが・・・。

宮城 じゃあ、近々打ち合わせしましょう。

吉本 ですね。今日はあらためて振り返り、初心がよみがえりました。ありがとうございました。引き続き、よろしくお願いします!

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