vol.7
見る人の心を揺り動かす。
100年後まで見据えた強度のあるロゴマーク

玉田泉

株式会社オフィス泉 代表取締役/丸の内ハウス統括マネージャー

たまだ・いずみ●1982年三菱地所へ入社し1992年退社。2005年「大手町カフェ」立ち上げのため同社復帰。2006年「丸の内ハウス」の立ち上げから担当。その後、独立。新丸ビル内「丸の内ハウス」の統括マネージャーを務めるほか、各地域のブランディングや商品開発、メニュー開発を手掛ける

グラフィックデザインの領域を超えた表現

一成さんとの出会いは、2008年頃だったと思います。リーマンショックがあって飲食業界を盛り上げるために「東京をもっと元気に!」というプロジェクトが発足したのですが、そのイベントのためのポスターをデザインしていただきました。

一成さんは打ち合わせで「不景気な時期だから、八百万の神をテーマにデザインしようと思う」と言ったんです。それを聞いたとき、「そんな壮大なテーマを、一体どうやってデザインするんだろう」と全然イメージが湧かなかったのを覚えています。

しかし、出来上がったポスターを見て驚きました。ポスターのモチーフがGRAPHオリジナルのキャラクター「きいちゃん」だったのですが、まさに八百万の神のように見えたからです。

見る人の心の状態によって、微笑んでいるようにも、悲しんでいるようにも見える。何か心に入り込んでくるような、哲学や精神性が感じられる表現で、グラフィックデザインの領域を超えていると思いました。

それ以降、一成さんには「舞鶴赤れんがパーク」や「TANGO OPEN」など、様々なロゴマークをデザインして頂きました。いずれも、ブランディングをけん引する、象徴的なデザインです。

一成さんがデザインするロゴマークの魅力は、100年経っても人の心を揺り動かす、目には見えない迫力があるところです。その表現はグラフィックデザインの二次元も、建築の三次元も超越している。つまり、「四次元」ではないか。建築家で東京大学准教授の川添善行さんと一成さんと、そんな話で盛り上がったこともあります。

型破りなデザインが生まれる背景

なぜ、一成さんはそうしたデザインが生み出せるのでしょうか。それは一成さんが、とても勉強家だからだと思います。

ご本人はそんなこと言わないですよね、きっと。だけど、親しい仲間はみんな知っています。常に数冊本を持ち歩き、膨大な情報をインプットし続けているんです。それを、みんなで食事をしたときに、分かりやすく、ときには経営やブランディングの考え方を織り交ぜながら話してくれます。宇宙の誕生から古代史といった歴史の話や、脳科学などサイエンスについてなど、ジャンルも幅広い。とても博学な方なんですよ。

一成さんは、グラフィックデザインの文法を無視したような、あえて“ずらしたデザイン“も得意とされています。品がある心地良い違和感で、一度見たら忘れられない独特なデザインです。それができるのは、一成さんはもともと絵の才能があって、ベーシックなデザインは当然、習得されているからだと思います。デザインに限ったことではありませんが、型破りなことは、その道を突き詰めている人だけができる特権です。

最近、一成さんの表層的な表現だけをまねた、“ずらしたデザイン”を見かける機会が増えました。しかし、それらと一成さんがデザインしたものは、あきらかに違います。私は見た瞬間、違いが分かります。そして説明もできる(笑)。それくらい、私は「一成デザイン」のファンであり、応援団の一人です。

      

編集:西山薫(デザインライター)