vol.6
GRAPHが提供する「アート資産」の
裏側にあるもの

水野祐

弁護士

みずの・たすく●Creative Commons Japan理事。Arts and Law理事。九州大学グローバルイノベーションセンター(GIC)客員教授。慶應義塾大学SFC非常勤講師。noteなどの社外役員。IT、クリエイティブ、まちづくり分野のスタートアップから大企業までの新規事業、経営戦略等に対するハンズオンのリーガルサービスや先端・戦略法務に従事。行政や自治体の委員、アドバイザーなども務めている。著作に『法のデザイン 創造性とイノベーションは法によって加速する』、共著に『オープンデザイン 参加と共創から生まれる「つくりかたの未来」』など
シティライツ法律事務所

GRAPHが目指す方向性との共通点

GRAPHとの出会いはたしか2012年、写真家の新津保建秀さんから「GRAPHの北川一成さんと一緒にご飯を食べませんか?」と誘っていただいたことがきっかけです。一成さんやGRAPHのお名前はもちろん存じており、「知財xデザイン」をブランディングに活かす取り組みをされていることも『クリエイティブ・マネージメント』という本を通して知っていました。

「クリエイターの権利を最大限活かすことで企業=クライアントの利益を追及する」という私が弁護士として考えていたことと、GRAPHの取り組みが同じ方向性だなと感じていました。記憶が定かではないのですが、もしかすると私が新津保さんに一成さんに会いたいとお願いしたのかもしれません。お会いした初っ端に「おれは弁護士が嫌いなんだ!」といきなり言われたことが、強烈に印象に残っています(苦笑)。

その後、少しずつGRAPHからお仕事をいただくようになって、顧問弁護士になりました。契約や知財のご相談が多いですが、新しいデザインやブランディングに関わるビジネスのブレスト的な相談も多いのが特徴です。

「アート資産」や「料金の考え」は結果にコミットする意思の表れ

日本では、企業とデザイナーの契約において「成果物の著作権譲渡かつ著作者人格権の不行使」が安易に選択されすぎている現状があります。近年、政府も問題視し始めていますが、このような現状は、デザイナーはもちろん、企業にとっても実はよくないというのが私の考えです。

クライアントである企業とデザイナーがwin-winの関係性を築くことにより、デザイナーが企業のブランディングに長期的に関わっていくことができる。それこそ、真に企業の利益につながると思いますし、昨今叫ばれている「デザイン経営」の本質ではないでしょうか?

もちろん、プロジェクトによっては著作権譲渡が不可欠な場合もあるでしょう。商標権と著作権の帰属を変えることで、バランスを取ったりすることもあります。
一方、このような考え方にたった場合、デザイナーがクライアントにコミットメント(貢献)しているか否かは厳密にジャッジされるべき、ということにもなります。

さきほど言及した「クリエイターの権利を最大限活かすことで企業=クライアントの利益を追及する」という言葉はこのような趣旨であり、GRAPHがデザインを「アート資産」と呼んで、著作権ライセンスによりロイヤリティをいただく場合が多いことも、同様の発想からのものだと私は理解しています。

つまり、GRAPHが権利にこだわる理由は、突き詰めると、仕事の結果にコミットメントするという強烈な意思から来るものだと思います。

GRAPHのアートやデザインは、最初みたとき「冗談でしょ!?笑」というくらい奇抜に感じるものが多い。だけどとにかく結果を出し続けているんですよね。それがGRAPHのクリエイティブの魔法なのですが、本当に痛快で、毎回すごいなあと。でも、聞いていくと裏側に緻密なロジックがあるんです。一成さんはそのロジックの部分を説明することは「野暮なこと」と考えているような節があって、ちゃんと聞いていかないと教えてくれなかったりしますが(苦笑)。

私が2013年に独立して自分の法律事務所を開設したときに、一成さんがご祝儀的に名刺をデザインしてくれました。実はそのとき、事務所の開設でバタバタしていて、お願いするのがギリギリになっちゃったんですよね。一成さんにはそんなことは説明せずに「これはけっこう時間かかっちゃうかな」と思っていたら、瞬息でデザインしてくれました。「忙しいのに、なんでこんなに早くあげられたんですか?」と聞いたら、「事務所あけるのに、急いでるやろ」と察してくれていて。しかも「『水』『野』『祐』が漢字だとそれぞれバランス違うから、フォントサイズ変えておいた」とか、細かいところまで滅法ロジカル。仕事の全てに感動したことを、昨日のことのように憶えています。

      

編集:西山薫(デザインライター)