vol.2/特別版
常識にとらわれず、「愛」をもって
コミュニケーションをデザインする

川添善行

建築家

東京大学 准教授

かわぞえ・よしゆき●東京大学卒業後、オランダ留学を経て、博士号を取得。ハウステンボスにある「変なホテル」の設計で、ギネス記録に登録される。およそ100年ぶりとなる東京大学新図書館計画を担当し、2017年に「東京大学総合図書館別館」を完成させた。設計だけでなく、「空間にこめられた意思をたどる」(幻冬舎)、「このまちに生きる」(彰国社)などの著作もある。日本建築学会作品選集新人賞、グッドデザイン未来づくりデザイン賞、ロヘリオ・サルモナ・南米建築賞名誉賞などを受賞し、空間構想一級建築士事務所、日蘭建築文化協会会長などの要職を務める。
東京大学 生産技術研究所 川添研究室
空間構想

 

【ヨハク】Ep.001 真剣に変なホテル
制作:ディスカバリー・ジャパン 協力:GRAPH 2017年ディスカバリーチャンネル放送

テーマパークでもない、博物館でもない。なんと、ここはなかなか予約がとれない人気ホテルです。 このホテルを手掛けた人の頭の中には、どんなアイデアがあったのでしょう。

北川一成

「幸せや生きていてよかったとか、楽しい気持ちや感覚をデザインしたいと思っています」

2015年、長崎・ハウステンボスにオープンした「変なホテル」1号店。フロントやクロークで働いているのは、ロボットばかり。その他にも、エアコンなしでも涼しさを保つ構造や宿泊料をリーズナブルにしたことなど、様々な試みが話題となっています。
デザイナーの北川一成さん。近年、挑戦的なデザインを数多く手掛けています。変なホテルイーストアームを手掛けた建築家・川添善行さんとともに、デザインの本質を探っています。

川添善行

「スマートホテルプロジェクトは、最先端の技術を集めるというコンセプトで進行していました。ようやく大枠が固まってきたくらいで、プロジェクトメンバーみんなで気付いたんです。名前はこれでいいのかと」

「スマートホテルプロジェクト」というネーミング、何に違和感を感じたのでしょう。

北川一成

流行している言葉は、風化しちゃうんですよね。技術の発展とともにサービスも進化する、変化し続けるホテルだから『変なホテル』という名前を考えて提案しました」

それを聞いたときの反応は・・・。

川添善行

「爆笑ですよ。ただ、みんな、受け止めるのに時間がかかったのは事実です。電話もきました。こんな名前は常識としてありえませんとか。けっこういただきましたね」

北川一成

「10人中9人は、はっきりアウトと言っていました」

しかし、変なホテルと名付けたことで、ある効果が生まれました。

北川一成

「変なホテルのどこが『変』なのか。みんな聞いてくれるんですよ。会話のきっかけをつくるというか。コミュニケーションが誘発されないと、次の展開につながらない。いつもそう思っています」

一度聞いたら忘れられないこの名前が、様々な興味や関心を引き寄せました。

川添善行

建築が社会の中で関心を持ってもらえることは、ほとんど今までなかったはずなんですよ。変なホテルは、それを実現できたと思う」

北川さんの遊び心は、ロゴマークにも入っています。

北川一成

「ロゴマーク、あれはね、チョウチョなんですよ、一応。昆虫って完全変態するので、変わり続けるホテルのモチーフにしました。あと、クレヨンしんちゃんのオケツみたいでしょ(笑)。見方を変えると、見るだけで笑っちゃう。変なホテルで通っちゃったから、みんなあきらめの境地みたいになっていたのかも。名前は変だけど、タイポグラフィはかっこよくしました。そういうギャップが大事。日本語が読めない人が見ても、身体感覚というか、情動に訴えかけるようなカタチの印象にはこだわった。どのスイッチを押したら人が興味を持つかとか、そういうことばかり考えています」

デザインでコミュニケーションを生み出す。北川さんが大切に思うことの1つです。

川添善行

「送り手と受け手がいて、両方含まれているのがコミュニケーション。北川さんはグラフィックを通して、コミュニケーションをデザインしていると思う」

北川一成

「コミュニケーションは、楽しいほうがいいんですよね。どういう風にしたら、会ったこともない人がつながっていくか考えています」

川添善行

北川さんには愛があるんです。そんなの知らないって素振りをするところもあるんですけど」

北川一成

「人間観察が大好きなんです。人に伝えることが仕事なので、不特定多数の人がどういう風に反応するのか、掘りさげていきたいと思っているんです」

    

編集:西山薫(デザインライター)